歯科における高血圧

高血圧の歯科治療上の問題点

出血

高血圧の患者は、抜歯などの観血的処置において出血しやすい。
血管内の圧力が高いため、血管の破孔から勢いよく血液が噴出するためである。

高血圧の増悪

高血圧の患者が、医院などでの治療の際、一時的に緊張から血圧が上昇する場合がある。
これを、白衣高血圧という。(白衣を見ると、緊張して血圧上昇するため)
また、局所麻酔薬には、末梢の血管を収縮させる作用のあるアドレナリンが添加されており、注入とほぼ同時に血圧上昇をきたす。
このような血圧上昇は、通常の健康状態ではほぼ問題にならないが、もともと血圧の高い患者においては時として偶発症が発生する。
具体的には、高血圧脳症、うっ血性心不全、心筋虚血、脳出血などである。

これらの中では、高血圧脳症が比較的頻度が高い。
症状として、悪心・嘔吐・頭痛・めまい・意識障害・耳鳴り・痙攣などがおこりうる。

歯肉増殖

降圧薬の中でも、カルシウム拮抗薬は、歯肉肥大をおこしやすい。
薬単体の作用でおこるわけではなく、歯垢の存在下で肥大をおこすため、清掃が適切であれば症状は消失してくる。
詳しい機序はまだ明らかにはされていない。
代表薬としてアムロジピンなどがある。

歯科における対応

血圧上昇対策

治療における前提は、きちんと高血圧がコントロールされていることにある。
血圧が180/100以上であれば、治療はおこなわない。
内科による治療が優先される。

160/100以上では、麻酔薬の使用は制限される。
普通の歯科用局所麻酔薬には、血圧上昇をきたすアドレナリンが添加されているため。
注入により20~50mmHg程度の血圧上昇がおこる。
当院ではアドレナリンフリーの局所麻酔薬の用意があり、麻酔の効きは悪いが、できるだけ安全に治療できるようにしている。
それでも、長時間や、中断の難しい症例は避ける。

当院で使用しているアドレナリンフリーの麻酔薬
メピバカインカートリッジ

160/100以下であっても、患者の状態により注意は必要。
できる限り血圧の安定している午前中に処置をおこなうようにする。
出血などが長引いた際、午後診で対応ができるというメリットもある。
治療体位も、心臓の高さと口腔内の高さが近い水平位はできるだけ避けるようにしている。

多くの患者が抱えている高血圧。
普遍的であるがゆえに、軽視されがちであるが、一歩間違えば患者を危険な状態にさらしてしまう。
歯科とは言え、常に意識のどこかで、患者の状態をチェックしながらの治療が望ましい。

高血圧 完