70代前半女性、以前勤務していた医院から私を追って来院された。
会うのは数年ぶり。
左上3に疼痛あり。
前医では、異常なし。
某歯科大で診察を受けるも、舌痛症ではといわれる。
舌痛症は、原因がよくわからない時によくつけられることが多い病名。
上顎に舌痛症は苦しい診断だが、原因をつかめなかったのだろう。
デパスを処方されていた。
デパスは強力な抗不安薬。
依存性が強く、薬剤耐性をつくりやすい。
長期にわたる連用をさけるべき薬。
このようなケースでは使ってよいものではないと考えている。
診察すると、左上3に時折自発痛あり。
う蝕や治療痕なし。
歯周ポケットは正常値。
痛みを出すような所見は見当たらない。
後方歯群は欠損で、3支台としてクラスプがかけられた義歯あり。
義歯装着時はあまり痛まないという。
まずおこなったのは、本当に痛みがあるかのチェック。
心因性のものならば、刺激に対しての真の痛みではない。
疼痛のある部位に、局所麻酔を少量打つ。
すると、痛みは発生しなくなった。
これは、刺激とそれに対応するトリガーポイントが実在するということ。
つまり、痛みはある。
眼窩下孔相当部をおさると痛みあり。
義歯をつけると痛みにくいのは、トリガーポイントが被覆されているためだろう。
三叉神経痛を疑い、テグレトールを処方する。
きつい薬なので、1日1錠から。
しかし、この患者にテグレトールは全くあわなかった。
ひどいめまいに襲われ、日常生活が困難となったのである。
これ以上の治療は専門家に託すべきと考え、脳神経科を紹介する。
顎顔面領域のブロック注射などは、それなりの経験が必要。
全てを自分でやるのではなく、疾患のあたりをつけたあとは、専門医にまかすのが私の主義。
後日、患者が事後報告に来院された。
病名は、やはり三叉神経痛。
ノイロトロピンが処方されていた。
実はノイロトロピンは有効成分がわかっていない薬品。
神経痛などに効果がある。
作用機序は、下行性疼痛抑制系を亢進し、疼痛の上行性伝達系を抑制するためらしいと推測されている。
人間の神経系自体の、疼痛伝達のコントロール機能を利用した薬。
残念ながら、歯科では処方できない。
しかし、この患者はノイロトロピンで一定の寛解をえた。
疾患は必ずあると踏んだことが効を奏した。
三叉神経痛は見落とされているだけで、割と遭遇する。
当院が開業してから、神経科に紹介して三叉神経痛とで確定された人数は3人。
当院に来院した患者1500人に対してである。
三叉神経痛 終わり