貼薬

根管形成し、洗浄した根管には薬をつめる。
これを貼薬(ちょうやく)という。
貼薬には症状に応じて、適切な薬を選択する。

ところが、この貼薬の基準が結構あいまいだったり、使用法自体を間違えているドクターが実に多い。
エビデンスを持って貼薬しているドクターは3割もいないのではないだろうかと思う。
その結果、症状が治まっていないのに根管充填したり、つめた歯が予後不良となったりとトラブルが続発する。

今回は、その選択基準と根拠を解説する。

ユーカリソフト

感染根管の再治療時、残っている根管充填材を柔らかくするために用いる。
殺菌力はない。

ユーカリソフト
ユーカリソフト

ペリオドン

残った神経を枯らす薬。
抜髄後に用いる。
麻酔薬も配合されている。
時間がない時など、上部神経を除去して貼薬すると、次回良い感じに枯死している。
かなりきつい薬で、根管外に漏出すると歯根膜炎を誘発し、打診痛が長引くことがある。
気化して効くので、針の先ほどで十分。

ペリオドン
ペリオドン

ホルマリンクレゾール(FC)

気化して効く薬で、やはりわずかな量でよい。
タンパク質固定作用が強く、殺菌力にも優れている。
いわゆる歯医者さんの臭いがする。
気化して効くタイプの薬品は、出血下では気化せず効果が薄い。
排膿や浸出液がない場合に用いる。

FC
ホルマリンクレゾール

フェノールカンフル(CC)

昔からある今治水(こんじすい)という薬をご存知の方もいるかもしれない。
100年以上の歴史を誇る薬。
強い局所麻痺作用があり、神経が露出している歯などに応急的に詰める。
硬化は迅速だが、神経は直接貼薬すると変性するため、次回以降の抜髄は必須となる。

CC
フェノールカンファー

メトコール

抜髄後の無菌の根管によく使用する。
鎮静作用が強く、噛んで痛い、打診痛が強い時に重宝する。殺菌力は弱め。

メトコール
メトコール

クロラムフェニコール

抗生物質。
スペクトルは広範で、効き目も強力。
重大な副作用と薬剤耐性の点から、医科での使用は極めて限定される。
そのような問題は、根管貼薬では問題にならないため、たまに使用する。

クロラムフェニコール
クロラムフェニコール

J(ジェイ)

ヨウ素製剤で、効き目は弱いが、口腔内に漏出しても問題が少ない(ただしまずい)。
抜髄後や感染根管治療など、様々な場面に使えるが、最も多用されるのがJ-OPEN。
J-OPENとは、根尖部の病巣などから大量の排膿がみられる場合に、綿栓にJを含ませた物をいれ、封鎖しない術式。
排膿路やガスの排出路を設けることで、一時的な内圧の上昇を防ぐ。

一部の歯科医が、これを否定的にとらえているようであるが、勉強不足の一言に尽きる。
逆行性に排膿路が形成されると、歯科だけでは済まなくなる場合すらある。

水酸化カルシウム製剤(カルシペックス)

水の存在下でイオン化して効果をあらわす。
真菌に至るまで広範囲に効き、安全性が高いためメインで用いている。
イオン化傾向が低いため、わずかな量でも十分。
また、中長期的にも効果が持続する。

カルシペックス
カルシペックス

落とし穴

ただし、カルシペックスは落とし穴がある。
痂皮(かさぶた)化の作用の強いこの薬は、その作用で大いに重宝する。
ところが、擦り傷などで、かさぶたの下でまだ膿が出ていた、という経験がある人は多いのではなかろうか。
これが歯の根の先でもおこるのだ。
症状がなくなった、といってつめてしまうと、必ず再発する。
これに気づかない歯科医の多いこと多いこと。

ではどうするのか。
Jなどの、弱い効き目の薬に変える。
問題があれば、次回来院時には、排膿などの症状が出ている。
一回余分に手間をとるだけで、確実なチェックができるのだ。

まとめ

他にもいろいろあるが、私が使っているのはこれぐらい。
根管治療における貼薬は、ロールプレイングゲームのようなもの。
歯の根の先で何が起こっているのか、考えながら症状を減らしていく。