歯周病とカビ

カンジダ菌と歯周病

常在菌であるカンジダ

口腔内の常在菌に、真菌というカビの仲間の一種、カンジダ菌(C.albicans)がいる。
健常であれば何の問題もない菌類であり、普遍的に口腔内にみられる。
このような菌を常在菌という。
高齢者など、免疫力が低下した人間に、時折悪さをしたりする。(詳しくはこちら

根拠のない医療

歯周病はカビが原因の一端。
カビを倒すことが、歯周病治療に有効という説が、歯周内科(薬で歯周病を治す)のドクターにより喧伝され、治療として広まった。
マクロライドによる歯周病菌退治と、抗真菌剤などによるカビ(カンジダ菌)退治をセットにした化学療法。
マクロライドについては、前回解説した。
一方のカビ退治、歯周病治療として、実績や科学的根拠が何もない

この療法が朝日新聞や、歯科雑誌に紹介されてしまった。
朝日新聞は、さすがフェイクニュースの家元的存在といったところだが、医療においてエセ科学は大問題。
日本歯周病学会が、ポジションペーパー(公式見解)を発表する異例の事態となった。
この見解をベースに、解説していく。

まちがった根拠

カンジダこそが、歯周病の起点。
こんな考え方が、歯周内科のセミナーで盛んに喧伝された。

歯周組織などには、まずカンジダ菌が取り付く。
そのカンジダ菌に、他の歯周病起因菌がくっついて細菌叢を形成する、というのが大まかな理論。

これにはベースになる事象がある。
カンジダ菌には、唾液タンパクや、ある種の細菌と共凝集して、口腔粘膜に定着するといった性質がある。
この共凝集の範囲をはき違えてしまったのが、この騒動の発端

細菌には、大ざっぱに嫌気性細菌と好気性細菌に分けられる。
前者は酸素を嫌い、後者は酸素のある環境を好む。

カンジダ菌は後者の好気性細菌であり、酸素分圧の低い歯周ポケットは不適切な生育環境である。
加えて、歯周ポケット内面は体温に近い温度であるが、カンジダ菌の生育温度はそれより低い25~30度である。
そのため、歯周ポケット内面で活発に増殖する可能性は低い。

対して、歯周病の病原性菌と考えられているP.gingivalisは嫌気性細菌であり、生育環境を異とする。
そもそもカンジダとは生育する環境が全く反対なのである。

カンジダ菌は、確かに共凝集する。
ただし、その相手はグラム陽性の好気性細菌と。
カンジダ菌は嫌気性のP.gingivalisとは共凝集することはなく、歯周ポケットに定着する可能性は低い。

以上のことより、カンジダ菌が歯周病の病原菌となりうる科学的根拠に乏しく、抗真菌剤が歯周病の治療薬として用いられる妥当性がない、というのが日本歯周病学会の公式見解である。

日本歯周病学会の公式見解

詳しくはこちら
かなり強い非難と否定となっています。

真菌除去の方法

薬で治すと喧伝する、歯周内科。
マクロライド系抗生剤(主にジスロマック)の投与後、抗真菌薬にてカンジダ菌の撲滅をはかる。
具体的には抗真菌薬のハリゾンシロップやそのほかの抗真菌薬を口腔内に、うがい薬などの形で投与する。
他にも、薬剤ではないが、ヒノキ成分などカンジダを減らす、とうたううがい薬などを使う場合もある。

これらの行為によって、確かにカンジダ菌は減るが、完全には駆逐できない。
つまり、条件によっては元に戻ってしまう。

抗真菌薬・フロリードゲル
抗真菌薬

耐性菌の問題

元に戻るだけならよいが、抗真菌薬の安易な使用は、カンジダ菌の薬剤耐性化を招く
通常の抗生物質と違い、抗真菌薬は、わずか4クラスしかない。
そして終末医療など、抵抗力の低下した高齢者などにとって、真菌感染症は命にかかわる。
そのような状況において、体内の真菌が、耐性菌に置き換わってしまっていることは、治療手段の喪失につながる。
わずかな種類の抗真菌薬しかない現状で、一種類でも使えない抗真菌薬があれば、大問題なのだ。
効果の疑わしい歯周病治療で、このようなリスクを負うことが見合うこととは到底考えられない。

薬剤耐性の真菌についてはこちらに詳しい

続きます