インプラントで癌?ありえないよ。といったドクターは勉強不足。
生化学・病理学のみならず、最新の学術は医療に携わる人間として勉強し続けるべき。
お金になる治療しか勉強しない。
そんなドクターが山のように存在することが頭の痛いところ。
そしてそんなドクターがインプラントを打つのだからタチが悪い。

癌化のメカニズムを簡単に説明する。
人間の遺伝子にはP53(ピーフィフティースリー)という抗ガン遺伝子が存在する。
持っている人は約半数といわれている、私が病理学で習ったころには。
この遺伝子はDNAのエラーを修復する働きをもつタンパク質の発現に関与する。

ところが、炎症が慢性化するとP53タンパク質はその働きがキャンセルされるようなメカニズムが発動する。
炎症、細菌との戦いで破壊された組織を修復しなくてはならない緊急事態。
残った細胞の増殖は目下の緊急課題。

P53は癌のみならず怪しい細胞に対し、自爆させる作用を誘導する。
細胞の自爆をアポトーシスという。

慢性炎症のもとでは、破壊された組織の修復のため、盛んに細胞分裂がおこなわれる。
そのため遺伝子の複製エラーの確率は高くなる。
複製エラーの中には癌も含まれる。
それだけなら、P53などの作用で修復も可能なのだが、ここは細菌との戦場、組織の回復が最優先。
リスクを承知の上で、生体が質より量の戦いをしている状況。
いちいち細かいチェックをしている場合ではない、というところか。

炎症によって発生させたサイトカインや、細胞分裂を効率的におこなう遺伝子転写因子はアポトーシスを抑制し、つまりはP53の働きを抑制してしまう。(具体的にはサイトカインである TNF-α、転写因子 NF-κB)
いわば戦時大増産。

そのため、炎症部位でガン細胞が発現してもそれを破壊する手立てがなくなる。
それが慢性炎症部位におけるガン化のメカニズムである。
歯科領域では頻度が少ない。
多くみられるのは、慢性肝炎からのガンや、大腸がんなど。

癌というのは、線引きが難しい。
遺伝子のエラーレベルは、無数の段階がある。
簡単にいうと制御不能となり、自律増殖をはじめたのが癌。

今回の事例は、遺伝子のエラーレベルが癌の一歩手前まで至った状態だったわけだ。
とはいえ、もはや正常な人間の細胞ではない。

明らかに異常な所見がみられるのに、経過観察ですますのはいかがなものか。
インプラントを打った手前、失敗を認めたくないのは理解できなくもないが、医療人として責任を全うすべきだ。
明らかに無理のある症例に強引に施術することはもはや医療ではない。

前癌病変 終わり