前回は作用機序での分類をしたが、今回は実際に体内でどのようにして効果を得ることができるか、ということによる分類。

薬理学の概念に PK / PD というものがある。
PKは pharmacokinetics 、PDは pharmacodynamics 。
それぞれ、薬物動態学、薬力学。
ややこしいので、薬物動態学は、投与された薬剤がどのくらい目的とする組織にとどくか。
薬力学は、薬剤の効果を活かすための投与法。
これぐらいの理解で十分。

薬物動態学から見ていく。
実は薬は飲んだら全てが吸収されるわけではない。
抗生剤によっては全く吸収されないものもある。
投与された薬剤が全身の血中にどれだけ到達するかの指数をバイオアベイラビリティ(bioavailability)という。
試験管内で効いても、吸収されなければ意味がない。
例えば、耐性菌の代表格、MRSA、メチシリン耐性ブドウ球菌。
これに感染した患者に、特効薬バンコマイシンを服用させても、全く効果なし。
それは腸管からは吸収されないため。
点滴で投与する分には薬効をあらわす。

バンコマイシンに限らず、抗生剤には吸収されやすいもの、されにくいものがある。
新しめの薬品の中で、よく処方されるフロモックスは吸収が悪く、ジスロマックはさらに悪い。
開業歯科医に大人気の第三世代セフェム(フロモックス・バナン・トミロン・メイアクト)は、実はバイオアベイラビリティが悪い。
反対に歴史の長いサワシリンは、血中濃度は高くなる。

それではサワシリンの方が良いのかというと、一概にそれはいえない。
ここが薬理の面白いところ。
ジスロマックなどのマクロライド系薬剤は、肺や扁桃などの組織内濃度は高くなる。
つまり、呼吸器系臓器への移行性が良好で、集積するため呼吸器疾患については分がある。
逆にサワシリンは組織移行性があまり高くないので、血中濃度が保たれる。
そのため抜歯の前に、血中に細菌がなだれ込む菌血症対策などで服用すると効果は顕著。
炎症などで血流が悪くなっていても、血中濃度の高さゆえそれなりに目的組織に届いてくれる点も大きな利点だ。

グリコペプチド系の代表格であるバンコマイシンは、腸管から吸収されないのに内服薬がある。
これは、腸管内のMRSAをたたくために使う。
吸収されないのでいくら腸管内の濃度が上がっても毒性はない。
ニトロフランは、血中濃度は上がらなく、どんどん尿中に排出される。
そこを逆手にとって、尿路感染症に使う。

このように薬物動態を上手に理解して、目的の組織に抗菌剤を届けることが、感染症治療の大原則。
いくら良い薬でも、細菌に届かなくては絶対に効かないのだ。
炎症で血流が悪くなっている状態で、バイオアベイラビリティの悪い抗菌剤を使っても効果は薄い。
もしそれで効果が出たのであれば、それは放っておいても落ち着く状態であった可能性が高い。
医療は、科学。
この点を十分理解しない投薬が、ちまたにあふれまくっているのが現在の歯科医療だ。

続きます