ひょっとこの顔

帯状疱疹ウイルスや単純ヘルペスは、再帰感染で発疹や痛みなどの障害をもたらすことを解説した。
これらのウイルスは、感染場所によっては、さらに厄介な症状を出すことがある。
それは、顔面神経麻痺。
片側の顔面神経が障害を受けると、ひょっとこのような顔貌になり、終生後遺症が残ることがある。

顔面神経麻痺

先日、70代後半の女性が来院された。
思うように顔に力が入らないという。
みると、片側の顔が拘縮(こうしゅく)している。
だいぶ前からだという。
唾液や味覚に障害はなく、聴覚障害もない。
典型的な末梢性の顔面神経麻痺である。

顔面神経麻痺の口元
顔面神経麻痺

顔面神経とは

表情筋の運動支配ならびに、舌前方三分の二の味覚、唾液や涙の分泌、聴覚のコントロールなどをおこなっている。
その経路のどこが障害されたかで、症状の出方が異なってくる。

ヘルペスウイルスによる顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の原因は様々であるが、ヘルペスウイルスによるものがある。
末梢性の顔面神経麻痺の原因のうち、実に75%にも及ぶ。
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるものをベル麻痺、帯状疱疹ウイルス(VZV)によるものをラムゼイハント症候群(ハント症候群)という。
いずれも顔面神経の膝神経節に潜伏するヘルペスウイルスの再帰感染によるもので、ウイルス性神経炎による浮腫や、神経の圧迫などで麻痺がおきる。

ベル麻痺

末梢性の顔面神経麻痺の6割が、HSV-1によるベル麻痺。
検査で麻痺の原因がわからなければ、ベル麻痺と考えて治療を開始する。
治療はステロイドの投与と抗ウイルス薬で、麻痺から1週間以内に開始しなければ奏功しない。
ステロイドにより神経の浮腫を軽減するのが治療の中心。
ベル麻痺は70%が自然治癒し、治療をした場合は90%が完治する。

ラムゼイハント症候群

末梢性の顔面神経麻痺の15%が、ZVZによるラムゼイハント症候群。
帯状疱疹患者の約1%に出現する。
小児期にかかった水ぼうそうの、口腔内の発疹からさかのぼって神経節にたどり着いたZVZの再燃が原因。

症状

最初に、耳の周辺に違和感や鈍痛、舌のしびれなどが現れ、数日後に耳や外耳に発疹がでる。
舌や口腔粘膜に口内炎様の発疹や、びらんがみられることもある。
歯科医として注意を要するのが、単なる帯状疱疹と決めつけず、耳の領域に症状を確認することだ。(一体どれほどの歯科医が知っているのか・・・)
その後、顔面神経麻痺の症状が出てくるが、各症状は前後することがある。

治療は一刻を争う。
ベル麻痺に比べて非常に予後が悪いためである。
自然治癒は30%、治療を早期に開始したとしても完治率は60%に過ぎない。
完治できなければ、一生麻痺顔貌との付き合いになりかねない。
治療は、ステロイドと抗ウイルス薬。
可及的速やかなる投与が望まれる。
また、浮腫による圧迫を軽減する手術を行うこともある。

ヘルペスウイルス総論

ヘルペスウイルスはごくありふれた感染症。
しかし、体内から駆逐できずに潜み続けるからこそ、牙をむくことがある。
その時は、時間が勝負。
ためらわずに医療機関の即刻受診をするのが賢明だ。

ヘルペスウイルス 完