怖い炎症性病変

開口障害で多いものは関節性のもの。
他に多いものでは、炎症性のものがある

炎症性開口障害

親知らずや扁桃などが感染性の炎症をおこした場合、周囲の咀嚼筋群に炎症が波及し、開口に障害をきたす場合がある。
抜歯後に口が開かなくなるのは、この炎症性
この場合に障害を受けるのは主に内側翼突筋。
顎骨の内側に位置し、筋肉や組織の隙間を炎症が縫うようにここに到達することで筋の運動が阻害される。

蜂窩織炎

ここで止まれば良いのであるが、診療を受けずに炎症が拡大すると、大変なことになりかねない。
人間の組織は分割され、まとまって袋に入れられたものが集合してできているようなものである。
この袋がひとつのユニットとなって、炎症などがそこから外へはいきにくいようになっている。
そして、この袋と袋の隙間は、スカスカで、この空隙は体のあちこちにつながっている。
このような隙間を、組織隙という。

この密度の低い部分が、口腔底に存在する。
感染性の炎症による開口障害は、まさにそこへの入り口にいることを示す。
ここに感染が入り込むと大変である。
このような感染を蜂窩織炎という。

密度が低い組織の隙間ゆえに、進行すると一か所に限局せず近在の組織隙に波及し、頸部に至ればもはや普通の歯科医院の手には負えない。
頸部から続く縦隔(左右の肺の間)に侵入されれば、縦隔炎となり、呼吸困難や敗血症で死にいたりかねない。

縦隔に至る前に、何としてでも食い止めることが重要。
診断にはCTが威力を発揮する。
血液検査によるCPR(炎症の指標)や白血球数も診断の基準となる。

秒単位ではないものの、時間単位で症状は悪化するため、抗生剤を点滴静注する。
通常はペニシリン系抗生物質かセフェム系(緊急時に静注する分にはセフェムも悪くはない)、重症であればカルバペネムなどが用いられる。
また、組織隙にたまった膿を切開し、チューブなどを挿入してドレナージ(排出)をおこなう。

蜂窩織炎の例

以前大学病院で、蜂窩織炎で搬送されてきた患者をみたことがある。
顎と首が同じ太さとなっており、ただ事ではないのが一目でわかった。
診るなり、外科ドクターは、即入院ですと宣言。
患者「じゃあ、荷物取りに帰って良いですか?」
ドクター「ダメです。家族に持ってきてもらってください」
このように全くのんきにしていられないのが、蜂窩織炎。

蜂窩織炎が頸部に至れば、救急案件
蜂窩織炎

総論

親知らずや虫歯を放置しておくと、実は命取りになりかねない場合がある。
船乗りのことわざで、板子一枚下は地獄、という言葉がある。
実は口腔は口腔底下に組織隙があるため、まさに一枚下は地獄といえる。

もし親知らずなどが腫れて開口障害がおきたら、それは地獄の一歩手前。
即刻歯科医を受診すべきである。