表層下で広がっていた虫歯

虫歯はいきなりできたりはしない。
口腔内が細菌の代謝物によって酸性になり、歯が目に見えないレベルで溶かされる。
これを脱灰という。
しかし時間がたって、口腔内のPH(酸性度)が元に戻ると、唾液に含まれる歯の成分(ハイドロキシアパタイト)によって微小な虫歯は修復される。
ところが、酸性に偏りがちで、修復する間がないと、虫歯は広がっていく。(虫歯の詳しいメカニズムはこちら
今回は、修復が十分におこなわれなかった結果、硬い外層の内部でう蝕が広がってしまったケース。

犬歯の脱灰からの虫歯

20代女性。前歯部を含む多数歯に白く脱灰がみられる。
どうやらスポーツドリンクを間断なく飲用する習慣下にあるらしく、再石灰化が追い付かない状況となっていた。
左上3番の犬歯はすでに虫歯になっていた。

犬歯の虫歯。脱灰した部分も広くみられる
犬歯の虫歯

痛みなどの症状はなし。
ただし、目につきやすい部位のため、目視で確認できる。

う蝕の状況

茶色く変色している部分はあるが、う蝕検知液で反応する部分は少ない。
これは、表層が再石灰化してしまったためである。
この手のものは、表層を残して内部で広がっている場合が多い。

削る前に、う蝕検知液を作用させる。反応が薄い。
削る前の反応

う蝕部を含む、脱灰されたと思しき部位をタービンで除去していく。
白濁してもろくなった部分はかなり広がっていた。

表層を除去
エナメル質を除去

う蝕検知液で反応がみられる
広がっていたう蝕

治療状況

黒くはないものの、う蝕検知液で反応があった部位は虫歯。
スチールバーで低速注水下で、慎重に除去する。
タングステンカーバイドバーなどでは硬すぎて、健全部分もバリバリ削れてしまう。
安価であるが、スチールバーは硬すぎず、う蝕を選択的に除去するのには好都合。

スチールバーでのう蝕除去
スチールバーでの虫歯治療

数回の検知液使用、除去を繰り返したのち、取り残しなくう蝕を除去できたことを確認する。
う蝕を取り除いた後の窩洞は、結構深く、また広さもあった。

う蝕除去後の犬歯
う蝕を除去した様子

前歯部や犬歯では、目立つため審美性が重要。
また窩洞も浅く不定形になりがちなので、コンポジットレジンによる治療が妥当。
グラスアイオノマーのフジナインは透明感に欠け、前歯部では目立ってしまう。
また弾性に乏しいため、浅い窩洞では剥離しやすい。

コンポジットレジンによる修復をおこなった
レジン修復

総論

虫歯が痛みなどの症状を出すのは、かなり大きくなってから。
その時には、予想を超えた大掛かりな治療になることがほとんどである。
まだ小さいから大丈夫、と思っても、今回のような症例のように大きく広がっていた、というのはよくあること。
虫歯を見つけたら、小さいうちに歯医者の門をくぐってほしい。

また、奥歯など、自分では見えないところに虫歯ができて静かに進行していては、気づくことは難しい。
定期的な検診こそが、それを防げる唯一の手立てである。