病原体の発見

人類がついに病原体という概念にたどり着く。
それまでにも、顕微鏡を発見したフックなどにより1600年代後半から微生物の存在は知られていた。
しかし、微生物が病原体ということにまでは長い間気づかなかったのである。

自然発生説の否定とパスツール

自然発生説の否定

微生物が腐敗をおこすことを発見したのはパスツールである。
フランスのルイ・パスツールは、化学、生物学、医学など多岐にわたって業績を残した科学者。
我々が普段口にする牛乳の低温殺菌法は、パスツールの生み出したもの。
他にも化学における光学異性体の存在や、弱毒化ワクチンなど野生のカンともいうべき直観力で様々な功績を残した。

有名なのは自然発生説の否定。
物は勝手に腐るのではなく、細菌など外部の微生物によるものということを、自作の妙なフラスコ(パスツール瓶)を使って証明した。

当時は腐った有機物が、発酵素の役割をして、発酵や腐敗がおこるとされていた時代。
現代からみれば、確かに微生物がいなくとも、酵素があれば腐敗や発酵はおこる。
しかし、酵素の概念が完成されていなかった時代、微生物が酵素を使って基質を作り替えているなどとは誰もわからなかったのだ。
パスツールは、酵素を生み出している(とは気づかなかったが)微生物の存在なしには、基質変化がおこらないことに気が付いた。
この研究をが発表されたのは1861年。
ついに人類は細菌に行き当たった。

細菌とその働き

そもそもパスツールは自然発生説の否定以前から微生物が多くの腐敗・発酵などの基質の変化にかかわっていると確信していた節がある。
彼が最初に手掛けたのは、醸造学。
ワインの製造が発酵によるものであることは、今では誰もが知っている。
しかし、当時はアルコールになったり、酢になったりと不安定なものであった。
パスツールは研究をすすめるうち、発酵に酵母(微生物)がかかわっていることにいきあたる。
つまり、基質の変化は細菌のような微生物によるものであり、細菌の種類により、酢になったりアルコールになったりすることに気付く。

病原体との邂逅

普通の学者であれば、この発見に大喜びして終了となるところ。
ところがパスツールの天才性は、同じようなことが動物の体内で起きていて、それが病気のもとになっているのではないかと考えたこと。
さっそく当時流行していたカイコの病気が、微生物が原因であることを突き止める。
感染症が、微生物によってもたらされることの発見である。
時は1867年、細菌学の扉が開く

余談 納豆とパスツール

実は、パスツールの説は否定される寸前までいった。
パスツールの殺菌は、煮沸消毒によるもの。
煮沸消毒で全ての菌が殺せるという前提で成り立っている。

ところが、100℃で死なない細菌がある。
枯草菌、つまりは納豆菌である。
なんと120℃まで耐えることができる。
納豆はゆでた稲わらに残る細菌、納豆菌を利用して作る。

細菌の中には、生活環境が悪くなると、芽胞という防御形態に変わり、過酷な環境を乗り切るものがある。
例えばハチミツの中にはボツリヌス菌の芽胞があるため、免疫系の未熟な乳児に与えてはならない。
歯科分野では、義歯カンジダ症の原因菌、カンジダ菌も芽胞をつくる。
そのため、滅菌には130℃程度まで加熱加圧できるオートクレーブ(すごく高価な圧力釜みたいなもの)が用いられる。

当院のオートクレーブ
オートクレーブ

枯草菌による反論は、フランスのプーシェによって展開されたが、公開実験に参加しなかったため終息した。
もし、公開実験に参加していたら、細菌学の発展そのものが遅れたかも知れない。

続きます