歯の根の解剖学
根管治療が難しい理由は、歯の根の複雑さにある。
何度根管治療しても、症状が出てくる場合は少なくない。
これはひとえに、歯の内部には全く術者の手の届かない部分があることにほかならない。
今回は、その内部をひも解いていく。
根管充填前の前処置
神経の通り道、根管を詰める(根管充填)前には、内部をきれいにする必要がある。
神経の生きていた場合には、残存した神経をきれいに除去して、腐敗しないようにしなくてはならない。
細菌感染していた場合には、感染物質を除去し、汚染歯質を一層削り取る必要がある。
これには、ファイルというドリルのような道具が用いられる。
ところが、このファイルが絶対到達できないような根管が多くあるのだ。
治療の容易な根管は
まっすぐな根管のイメージ
上の図のように、根管充填はまっすぐおこなうことができれば、問題ない。
しかし、まっすぐで、ほぼ円形の根管は、全体の55%ほどに過ぎない。
残りの45%ほどは、曲がっていたり、枝分かれしていたり、いびつな断面をしていたりする。
そして、このような歯牙の根管の正確な治療は不可能といってよい。
特に、根管内部に細菌の侵入を許し、感染してしまった場合の予後は極めて不良となる。
複雑な根管
治療の難しい根管は、いくつかのパターンに分けられる。
歯牙に墨汁を流し込み、脱灰後、スライスした墨汁標本という手法がある。
この手法で作成された標本で紹介する。
湾曲
歯の根の曲がりが異常にきついもの。
ひどいものだとWクランク状を呈するものもある。
湾曲根管
側枝
主根から側方への枝分かれ。
内部の掻爬は不可能。
側枝(先端付近右)
分岐
歯牙には枝分かれしたり、再合流したり、網目状に広がったりするものもある。
このような複雑な根管に対する完全な治療は全くの不可能。
予後は極めて厳しいものとなる。
分岐し、再び合流、さらに再分岐
複数の分岐
複雑極まりない分岐
下顎大臼歯の遠心根・ファイルの挿入すら不可能な場合もある
根管の断面形状不良
根管の形状不良は、垂直方向だけではない。
発生途上に根管は圧平や癒合などにより、いびつな形状となり不良な断面を形成する。
いびつな根管断面図
正確な根管治療ができない歯は多い
今回列記したものは、特に典型的なものであるが、不良形態をとる根管は少なくない。
そのような歯牙の根管治療の予後は不良だ。
それに対する最大のカバーは、虫歯にならないこと。
なったとしても、初期段階での治療こそが最善かつ唯一の対処法といえる。
続きます