神経内科に通ってらっしゃる患者は結構多い。
近年では、教職の方が昔に比べ多くなってきている。
モンスターペアレンツなど、かなりのストレスを抱える事案が多いのだろう。

向精神薬剤は、近年大きな進歩をとげたといってよい。
バルビツール酸系の安全性の低い、かつて自殺に使われる睡眠薬の代名詞のような危険な薬はもはやほとんど使われることはない。
現在、抗不安薬として最も使用頻度が高いのがベンゾジアゼピン。
代表薬として、デパスやメイラックス、一昔前だとハルシオンなどが有名。
鎮静、抗てんかん、抗不安、催眠、筋弛緩などの作用を示し、心療内科等で簡単に処方されている。
鬱までいかなくて、不眠や不安を覚える患者には第一選択薬となりうる。

この薬がどのようなメカニズムで薬理をあらわすかというと、脳の機能を低下させることによっている。
ベンゾジアゼピンはGABAと呼ばれる神経伝達物質を増加することで、大脳辺縁系や脳幹網様体と呼ばれる部分の神経活動を抑える。
だから、この薬を服用している患者は、気力に乏しく、希薄な精神強度のもとで生きてるような印象を受ける。

この薬の特徴として、依存形成がある。
長期間の使用において、依存の形成と、薬剤耐性がおこる。
そのため、心療内科では、言い方は悪いが、一度沈めてしまえばお得意様となり、定期的に患者は通ってくる。
日本では保険制度の安価な診療報酬のため、積極的に処方したほうが経営的にプラスというわけである。
だから、ベンゾジアゼピンの処方量は、日本は他国と比べ非常に多い。

この結果、ベンゾジアゼピンの乱用が問題となった。
当然であるといえば当然、ベンゾジアゼピンは麻薬及び向精神薬取締法の対象薬物そのものなのだから。
だからこそ、デパスなどの転売が後を絶たない。
昔はハルシオンをアップジョン・青玉といってハイになる薬として人気の時代もあった。
はっきり言って、医者が処方する麻薬そのものといっていいだろう。

さて、ベンゾジアゼピンの長期服用患者は、虫歯・歯周病共に頻度が明らかに高い。
虫歯は多発し、歯周病は重症化するきらいがある。
これは、ベンゾジアゼピンを服用することの副作用である唾液分泌能の低下による。

ほとんどの薬剤は多かれ少なかれ、唾液の分泌を低下させる。
ベンゾジアゼピンなどの抗不安薬は特に顕著。
唾液には、歯の成分であるハイドロキシアパタイトが大量に含まれている。
これにより、発生した微小な虫歯(脱灰)を修復するのだが、その修復能がガタ落ちとなる。
その結果、口腔内、特に唾液のいきわたらない上顎に顕著にう蝕が発生する。

また、唾液にはリゾチームなどの抗菌成分が含まれている。
それが充分にいきわたらなくなり、歯周病は悪化する。
そのため、我々が虫歯や歯周病を治療しても、次から次へと問題がおこる。

さすがに、ベンゾジアゼピンの乱用が問題となり、近年になってやっと規制が入りだした。
催眠や抗不安薬として、非ベンゾジアゼピンの抗鬱剤導入もすすんできている。

ところが、歯科においては、この抗鬱剤も厄介な代物なのだ。

続きます